説明
: 本作は、新々刀の祖として確たる名を残す名工、水心子正秀の寛政七年(1795)、正秀四十代半ばの円熟期作。水心子正秀の作風は、初期の安永・天明頃における津田助廣風の濤瀾刃など華やかな作から、寛政期頃より復古刀研究を深め、備前・相州・山城など各伝の本質を追究した古作への作風に変遷する。本作は正秀の円熟した境地を示す好例。姿は反りを抑えて茎を雉腿に仕立て凛然とした風貌。地鉄は小板目がよく詰んで精緻に鍛えられ、しっとりとした潤いを湛えながら、均質ではない地鉄による鍛錬が生み出す柾肌をみる。刃文は頭が揃い逆掛かる端正な尖り互の目。精美に詰んだ地鉄にあらわれる柾肌と調和して高い技量と美意識が反映された作。茎の部分的な朽込惜しいが、銘文に関して、「仁 水心子正秀」 と切られているのは、銘頭に儒学的・思想的意味合いを帯びた「仁」を冠して、技術のみならず人格や徳をも重んじた正秀の精神性をあらわしたものと思われる。裏銘注文主の「佐久間成章」なる人物の詳細は現時点で明らかではないが、正秀に特注で作刀を依頼できる相応の地位・財力を有した武士あるいは愛刀家であったと考えられる。令和5年(2023)保存刀剣審査合格。水心子正秀の思想と卓越した技量を示す資料性・鑑賞的価値が高い一振。